Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    たとえばこんな 明日はいかが?〜別のお話篇

    



 ゴールデンウィークの間は、初日こそ物凄い寒の戻りがあったものの、どうかすると初夏並みのいいお日和が数日に渡って訪れたものが。
“ふに〜〜〜。”
 まだ五月も半ばだっていうのに、梅雨みたいに本格的な雨催いの日が続くここ数日で。グリーンのブレザーの肩の上へと、担ぐように細い柄を乗っけた濃紺の傘の表では、お馬の速足みたいな“ぱたらっぱたらっ”という雨脚の音が、単調なまま ずっとずっと続いてる。
“これじゃあ今日も室内トレーニングかなぁ。”
 首とか傷めないようにっていう筋トレも大事だってのは判るけど、どっちかというと広いグラウンドを思う存分駆け回る方が好きな彼だったから。体力はついたけど腕力はまだまだな身なればこそ、ダンベルやバーベルを持ち上げるのはいまだに苦行で、それを思うとやっぱり憂鬱。はぁあと肩の落ちた小さな背中が、でもでも、
“…あっvv
 進行方向の先へ何かを見つけた途端に、足元から元気が復活した模様。重りを下げてたのから解放されたかのような軽やかさにて、ぱたぱたっと駆け出して、駆け寄った先はといえば、

  「蛭魔くん、おはよーvv
  「おう。」

 お元気りんりんな声へ、ちょっと面倒そうな気のないトーンにてのお返事が返る。こちらさんは真っ黒な傘だが、何と内側は発色のいいスカイブルーという、なかなかに洒落者な生徒であり。染めたにしては自然な色合いの金髪を、整髪料にてツンツンと尖らせ、左右の耳朶にはシルバーのリングピアスを2つずつ。一応は来月からが衣替えだが、ブレザーの裾から覗くのは夏服開襟シャツの裾らしく。こうまで天下御免の傍若無人を、さして気負わず貫いてる細身の彼こそは、
「おっ、蛭魔だ。」
「え? 蛭魔くん?」
「えっ?! どこどこどこっ!!」
 その名を聞いての周囲の反応が、好感触だったり恐怖のお声だったりと種々様々なところがなかなか面白い、只今二年生の蛭魔妖一くんといい、
「やべ、俺、あいつにガンつけされてよ。」
「え? 何しでかしたの、お前。」
「しばらくは縁切りな。」
「悪く思うな。」
 何をやったかという覚えはないのに、どんな報復が降ってくるやらと勝手に恐れられてる向きもあれば、
「カッコいいのよねぇvv
「別にツッパリじゃあないし、センスもいいしvv
 色白ですっきりと整った、冴えのある端正な風貌に、シャープで優美な所作や物腰。そこへ加えて、ちろりんという一瞥だけで教師さえ黙らせる不思議な威容と、だってのに日頃は飄々としていて怖いものなしなその鷹揚さが、頼もしいとウケてる向きもあり。
「どこが“カッコいい”んだよ。」
「だってイケメンには違いないでしょ?」
「それに、小早川くんと一緒にいると、何か眸が離せないし〜vv
 どこか尖った挑発的な容姿は、ともすれば怖がられるばかりの筈だが、
「何だ、今朝は栗田と一緒じゃねぇのかよ。」
「うん。栗田さんは壁
ラインの子たちと早朝練習するって、今週からずっと二時起きなんだって。」
「二時…。」
 そうまで早いものは“早朝練習”とは言わんぞ。じゃあ何て言うの? う〜ん、深夜、いやいや、未明練習かな。
「それよか。また栗田さんのこと呼び捨てにしてる。」
「いいじゃねぇか。糞
ファッキンデブよかマシだろ?」
 お前があんま喧しーから改めてやったんだ。ダメだよぅ、先輩さんなのに。すらりとしたのと、ちょこりと小さいの。そんな大小2つの背中が傘を並べて歩むのを、周囲に居合わせた生徒たちがそれぞれに様々な思惑から見送るのもいつものこと。どこでどうやって掴んだのと青ざめるほどの綿密意外な情報量を誇り、それをして“悪魔の”と呼ばれ、一部の生徒や教師たちからちょっぴり怖がられている蛭魔くんを。だって幼なじみだしィvvと、全く全然怖がらない天然坊やの小早川くんだったりするのもまた、ここ、私立泥門高校の七不思議の1つに数えられているのだとかで。こちらさんはちんまりした容姿がどちらかといえば“かわいい系”で、柔らかそうな甘い栗色がかった黒髪にいや映える、潤みの強い大きな瞳に、ふかふかの頬や小鼻、表情豊かな口許などなどがひたすら甘い雰囲気の、ファニーフェイスが女子に大受けだってのに。そんな風貌の割に、多少の邪険な扱い程度ではめげない、意外な腰の強さも持ち合わせてる小早川くんだってのが、蛭魔くんの側へも…長年の付き合いの中で“諦め”を学習させたものだろか。ちょこまか寄って来ては他愛ないことを話しかけて来るのへ、神経質そうに見えつつ、その割に…キレるとどっからともなく銃器が出て来る過激な反応を、さして繰り出しもしないで付き合ってやってる金髪痩躯の悪魔さんだってのが、
“一体どういう相性なんだろか。”
 こればっかりは、他にも多少はいるはずの同じ中学出身者にも、説明し難い作用だそうで。そんな周囲からの視線も“気にしてなんかいませんよ”のご本人たちはといえば、
「次は準決勝だもんね。ラインの皆も燃えてんだよ、きっと。」
 わくわくっと目元を細めて楽しそうに笑う小早川くんからのお言葉へ、
「とはいえ、練習で身体壊してちゃあ意味ねぇだろうが。」
 ほどほどにしとけって言っといたんだがなぁと、不機嫌そうに目元を眇めた金髪のQBさんにしても、実を言えば…気が逸っているのに大差はなく。彼らがお勉強よりも心血注ぎ込んでいる、アメフトの春季都大会が、只今順調に進行中だったりするのへと、話題もついつい偏りがちで。五月の初めは毎年恒例の連休があって、春季のスポーツ大会もここぞとばかり催されるが、彼らの場合はその間じっくりとお休みが取れたため。そんなインターバルが挟まってしまったせいで、却って気持ちの逸り具合も半端じゃあないのかもしれない。
「野球なら連日で試合するってのも可能だろうがよ。」
「サッカーとかアメフトだとそうはいかないもんね。」
 そんでも、サッカーの高校選手権なんかの日程はなかなか惨いもんがあるけどな。準決勝から決勝まで、1、2日しか間を置かねってのはキツかろうによ。
“つか、野球みたいに全国に何千も参加チームがある訳でなしだから、週に一回戦ずつなんてな余裕もってトーナメントが組めるって順番なんだろうがな。”
 一頃までは殆どのガッコに必ずあるという認識が普通一般的だった高校の硬式野球部も、実のところは…進学優先指向やらここへも勿論の少子化の影響、それからそれから、野球ばかりが花形スポーツじゃあなくなったことを受け、結構有名だった名門校でも公立私立の別なく廃部傾向にあるそうだと聞くけれど。それでも、高校野球の夏大会の地区予選なんかだと、土地によりこそするものの…兵庫や大阪といった激戦区だと、会場を5つ6つ押さえてて、日に3試合ずつこなしても、連日開催で消化しないとおっつかない参加数。それに引き換え、アメリカンフットボールはというと、やはりなかなか…実際にプレイする人口を増やすところまで浸透させるには、何かと条件が厳しいのが現状なのか。相変わらずに首都圏や大都市エリアのガッコでないと、部活としてやってますというケースはそうそう勢いよくは増えもせずで。よって、週に1回というペースで十分に、地区予選から都道府県大会。その後の、全国大会までを2カ月ほどで消化し切れるほどしか参加校が存在しない。装備やグラウンドも、そんなに途轍もないものが要るってことはないのだけれど。ルールだって野球や他のスポーツに比べてもさほど複雑じゃああないのだけれど。
“馴染みの差だろうよ。”
 そんな簡単に出来るものだとは思ってない層がまだまだ多すぎる。ゴルフやテニスのように個人で参加出来ない団体競技だけに、昨今のプロ野球やプロサッカーの世界で見られてるように、スーパースターが本場で活躍することで競技自体を盛り上げでもしない限り、ドラスティックに伝播させるのはやはり難しいことであり、
「そういや、奴からは連絡とかあるのか?」
 鼻歌交じりのご機嫌さんで、並んで歩くおチビさんへ向け、金髪の彼が唐突にひょいっと訊いたのが何へのことだか。すぐさま判ったらしいのに、
「あ…えと、うん。////////
 今はお休み期間だけれど、毎日練習三昧だって言ってたよ? ほんのりと頬を染め、語尾も打って変わって ふにゃふにゃと淀んでしまうところは、
“…進歩ねぇ奴。”
 いやいや、恥じらったり含羞むようになったのは、こいつにはいっそ進歩なのかもなと、呆れたそのままなめらかに、にんまり笑って見せたりしたのへ。これも彼なりの意趣返しだったか、
「あ、そだ。」
 むうう〜っと膨れかけてたセナくんの表情が止まって、首のところで傘を支える。肩から提げてた指定バッグのファスナーをまさぐり、何とか開いて取り出したのが…1通の封筒で、
「はい、これ。」
 鼻先へと突き出されたもんだから、
「何だ? いよいよ進を見限って、俺へと鞍替えか?」
「ち〜が〜う〜〜〜。////////
 何でそういうことを即妙に言うのかなと、やっぱりむむうと膨れつつ、引っ繰り返された封筒の裏っ側。隅っこには…覚えのない、だが、間違いなく女子だろう名前が小さく綴られてあり。どうやらどっかで預かって来たものだったらしいのを確認すると、
「…あ。」
 長い指にてひょいと取り上げたのへ、ホッとしたのも束の間のこと。そのまま両手の先にて長い辺の中央を摘まみ、一気に前後へビッと………っ!
「ちょっ、ちょっと。蛭魔くんてばっ。」
 何してんのと慌てて手を伸ばしていたセナの肩から傘が転げ落ち、お、珍しくも喧嘩かと、周囲からの視線が集まって来たのへ舌打ちをした金髪の悪魔様。
「おら、こっち来い。」
 バッグごと肩口を掴んで傍らの路地へ。引っ張ってくと素直について来た小柄な体を、ややもすると…この子を相手には意外な乱暴さにてブロック塀へと押しつけて、
「お前な〜〜〜。」
 なんて声を出しやがると、まずはそこへのお叱りを小声で飛ばせば、
「だっていきなり破っちゃうなんて可哀想じゃないか。」
 怯むことなく言い返せているセナくんだっていう、こここそが。普通の生徒たちにはまず見られなかろう強腰なところという奴で。
「いいんだよ。お前は見たままを伝えな。」
「だってさぁ〜〜〜。」
 お手紙書くのって、結構気持ちを奮い立たせなきゃ出来ないことだよ?
「だから?」
「せめて読んであげてからにしなよ。」
「あほう。その方が惨いんだってのが判らんのか。」
 これだから初恋をそのまんま抱えてハッピーでいる奴はよと、目元を思い切り眇めた妖一さんだったものの、

  「あ〜っ、それは蛭魔くんだって同んなじなn〜〜〜(むがもご)っ。」
  「うっせぇなっ! /////////

 小さなお口だったから、片手で十分塞げたけれど。お顔がついつい赤らんだのは、何とも隠しようがなかった小悪魔様、
「それが判ってんなら尚のこと、こんなもんを預かってくんじゃねぇよっ。」
 とうとう開き直ってか、そうと言いつのれば、
「ごめんなひゃい〜〜〜。」
 やっとのこと、こういうことへの機微とやらへの納得に至ったらしき小さな相棒が、手のひらの下からそんなお返事を返して来て。…それからあのね? そりゃあ大真面目なお顔になって、

  「じゃあ、ボクが見てないところで破ってね?」
  「………お前な。」

 結構ちゃっかりしているところも、なかなか腰の強いセナくんだったりするようです。







            ◇



 窓が大きいので昼間は自然光だけでも存分に明るく。天井が高く、一間一間がゆったりした作りの、フリールームとロフトつきの2LDK。流行のイタリア製だの、ニューヨーククラシックだの、ゴージャスな家具調度がこれみよがしに並んでいるということはなく。最低限必要なものをだけ、品のいいシックなものでトータルされてる落ち着いたフラット。主張するものこそ少ないが、品数が少ないからこそのセンスのよさからは、見る人が見ればなかなかのセレブリティが住まいにしている空間だなと判る、そんな住まい。とはいえど、

  「ん〜〜〜、これってホントにこんな遠回しな“買い”でいいのかよ。」

 長めの脚を持て余し気味に前方へと放り出し、クッションの良さげなデザイナーズチェアへ、ちょいと自堕落にも浅めに腰掛けて。向かい合ってるシステムデスクに据え置いた、少し大きめのPCモニターを気のないお顔で眺めてる。羽織っているのは無地のワイシャツに量販店で買ったらしい無地のスラックス。頭は黒い直毛を軽く撫でつけただけという、髪形にも着ているものにも洒落っ気なしのこの男性こそ、このフラットの主人であり。お洒落だシックだハイセンスだなんてな、そういう方面の関心も頓着も、まるきりなさそうな雰囲気の人物であり。そうかと言って、じゃあモニターに展開されている細かな表やグラフをこそ愛しているのか、情熱を注いでいるのかというと…そっちにも大した関心はなさげ。そんな彼へと、
「いいんだって、名義はバラバラのままで。」
 今は無関係を装ってるけど、必ず○○国の金利政策が影響してくんだから。そうなったら▽▽国の◇◇◇社は隠しマネーの価値がどんと落ちるからって、大慌てで持ち株のそれを売りに走る筈。
「吐き出したそれを一気に買うことでチェックメイト、M&A成立ってわけ。」
「あんなデカイ企業を俺らが買収してどうすんだ。」
「勿論、ホントにはやらねぇさ。でもそれも可能な持ち株数になんぞってことを誇示出来りゃあ、あいつらとの優劣関係が逆転するんだよ。」
 まるでゲームの駆け引きのように、あっさりと言い切る口調も恬淡と軽快で。結構な規模のマネー計画をさして執着もなさげな声音で語るところが、却って末恐ろしいのも相変わらずの、金髪痩躯の青年の方は、今朝方、例のラブレターを事もなげに引っ破いた小悪魔様で。
「だから何で、そんなシナリオがお前には判るんだよ。」
 そこが問題なんだろがと訊かれて、さもありなんと笑い返すも余裕の表情。
「そこは“日々の蓄積の成果”だっつーの。」
 欧米仕様の大きめサイズのソファーは、スリムな彼には余裕で寝そべることの出来る幅があり。そこへこちらも自堕落に、ごろんと寝転び、デスクの方へと頭を向けてはいるものの。こちらの彼の関心は、そんな味気無い取り引きの上には既にないらしく、
「なあ、まだ終わんねぇの?」
 金茶の瞳から発してる、真っ直ぐな視線の先に座っているのは。今ならちょっとは格差も減ったと思ってる、年上の黒髪の彼の横顔で。日頃の生業として手掛けているのは、その日その日の取引内の変動で利鞘を稼ぐ、所謂“デイ・トレーディング”じゃあないんだから、そうまでずっとモニターに張りついてる必要はないのに。主にはこの青年からのアドバイスに従って、中長期の変動を睨みつつの売ったり買ったりをしているのであって。
「そんな手間かかるか? 今日の分。」
 ややこしい指示は出しとらんぞと、暗に含んでの声を掛ければ、
「ん〜〜〜、ちょっとな。接続
アクセスが集中してるみたいで。」
 打ち込んだ処理がなかなか反映されないからと、画面の前から離れて来ない相棒さんの。ちょいと男臭い、でもまったくこっちを向かない横顔へ、
「ん〜〜〜。」
 こっちもついつい、似たような焦れ声を出してみたりして。退屈を持て余す猫みたいに、ぱったん・ごろごろ、寝返りを打ってみたり、撓やかな腕を背中をぐ〜んっと伸ばしてみたり。さっきから盛んに“構え〜vv”のサインを出しているのに、画面へ見入る横顔はちっともこっちを向きゃしなくって。
“真剣真摯な顔がカッコいいのは判ったからさ。”
 何かに集中していて無心な無表情になると、鋭角的な面差しの精悍なところがいよいよ強調される彼であり。昔は困ったような顔になるとどこか情けない気配もあったものが、今はただただ、武骨で男臭くて…頼もしくって。
“でも、鈍感どんがらがったなところは進歩ないもんな。”
 まずは俺だろ俺。ご機嫌を伺う一瞥とか一言とか、それを送って来といてから、そっちに集中しろっての…なんて。気の利かない恋人に焦れてるヒロインよろしくの、渦巻くご不満を胸の裡
うちにて転がしてから、
“………お馬鹿ルイめ。”
 どんなお誘いの挑発も、相手の視野に入らにゃ意味がない。この俺様からの秋波にさえ反応しないとはいい度胸だと、それをこそ宣戦布告と受け取って。ソファーの上から起き上がると、数歩分あったデザイナーズチェアまでの距離を詰め、その背もたれを両手で掴んで…くるりとターンオーバー。
「わ、こら、何す…。」
「う〜る〜さい。」
 こっちを向いた、というか、強引に振り向かせた相手の腿を跨いで、お膝の上へと我が物顔で跨がるところは、
“…何年経とうが変わんねぇんだからよ。”
 ひょんなことから知り合って、付き合い出したその初め。まだ小学生だった頃からの、傍若無人な行動ながらも…どこか子供じみた甘え方。どんなに偉そうに構えようと、進歩がないのはお互い様じゃんかよと、葉柱の側でも感じるところではあるけれど。昔は単なる甘えで済んだものが、
「…こらこら、擦りつけてんじゃねぇ。」
「何だよ。勃っちゃうってか?」
 撓やかな腕を伸ばして来て首元へ。その道での手練れな女性を思わせる、ほんのりと淫蕩なすがりつき方にて。しがみつくよに懐ろへ、上背を凭れさせて来るところまではいいとして。腰あたりを意味深にじわ〜っと擦りつけてくるよな“悪戯”は、さすがに昔は やんなくて。
「だ〜か〜ら。」
 気持ちいいからやめなさいってのなんて、苦笑交じりに言い返し、その程度でわたわた狼狽しないところは、さすがに年の功だけど。動じないそのまま、ノリで意気投合しちゃって流される…こともなく。
「あと何十分もかからないんだから待てってよ。」
 まずは“時と場合をわきまえな”と、諌
いさめる対応が出るところが、
“…チッ。”
 妙なところで育ちのよさが出て来やがる野暮天なんだからと、内心で舌打ちしちゃう妖一くんだったりし。あまりにスタイリッシュで卒がないのは、知己の中にもごろごろいるし、何より本人がそういう“装い”こそ得意だからね。洗練されてるといやあ聞こえはいいが、何が起きても何を望まれてもなめらかに対応しようというからには、余裕という名の“溜め”が要る。そのためにと一線引いて、人を瀬踏みしているよなクールな態度を取っているのが、鼻につき始めるともうダメだし、サプライズや面白味がないから退屈でもあり。だからこそ、彼のような野暮ったい朴訥さもまた、からかうにしても、攻略する手間が要ると数えるにしても、大好きなポイントとしているくせして。こういう時だけは、察してそのまま受け入れてくれないのが、ムッと来ちゃうから、女王様ったら我儘なんだからvv …いや、間違いなく男の子なんですが。
(苦笑)
「別にフリーズした訳じゃねぇんだろ?」
 ぎゅうとしがみついたままの態勢にて、相手の首の側線へとこっちの頬をくっつけて。なあなあと甘えもって囁いて来る悪戯者。小さい頃なら、背中でも撫でて宥めてやれば済んだのだけれど、
「なあって…。」
 外では超然と偉そうにばかりしているものが。こうやって二人きり、自分の懐ろにもぐり込んで来たときにだけ。昔と変わらぬ駄々っ子に戻り、昔と違う“もっと”をねだる。腕の中に易々と収まる肢体は、だが。昔とは明らかに違う色香をたたえて、艶をおび。
「るい。」
 おでこ同士をこつんこと、合わせたところからの前髪越しに、上目遣いに見上げて来る様子にも、誘惑の気配が甘く滲んで…けしからんくらいに蠱惑的だったりし。

  「…んん?」
  「……ん。」

 良いのかと探るようにして問えば、良いって言ってるんだろうがよと伏し目がちに焦れて見せ。視線だけでの牽制めいたやり取りから、そぉっと引き合い、近づく唇。細い顎を掴まえた手へ誘(いざな)われ、触れ合った柔らかさと熱とが意識を浮遊させ、全身へと同じ高さの熱を運ぶ。あまりの柔らかさ、頼りなさへ、触れ合ってるだけじゃあ物足らないと思うせいか。もっとと押しつけた唇を、割って伸ばされて来た舌の先で遊ばれながら。背中へ肩へと丁寧に回された腕で、きゅうと抱きすくめられた束縛の甘さへ、居心地のいい目眩いを感じて。
「…あ。////////
 いつの間にか唇は離れ、萎えそうになる手ですがりついた堅い肩口に頬を当てれば。忙しなくも手際よく、シャツの背の裾からすべり込み、そのまま肌の上、這い上って来ていた温みに気づく。そんなまで乗り気になって来たくせに、
「まだ明るいんだけどな。」
 白々しくも囁く唇の先が、これもわざとにだろう、耳朶に触れてて擽ったい。それがどうしたんだようと甘えるように、その痩躯を広い懐ろ深くへと揉み込めば。少し長い舌にて、うなじをすすすっとなぞり上げられ、
「…ん。////////
 やっとその気になったらしいその合図へと、こちらもますますのこと、頬が体が甘い熱を帯びて来た…正に丁度そのタイミングへ、

  ――― 〜〜〜〜〜〜〜♪♪♪・♪

 オルゴールVer.の着メロが、それは長閑に割り込んで来た。しかも、選りにも選ってディズニーの“イッツァ・スモール・ワールド”と来て。それと決めて設定した当事者のクセして、こんな時にこの曲聴くと萎えるったらありゃしないとばかり、ううむなんて唸ってしまった、金髪痩躯の悪魔様。
「…出ねぇのか?」
「出るよっ。」
 白いお顔が上気しかかってたのも、こうなると間抜けなばっかじゃんかよと。不承不承だというのがありありの態度にて、口許を尖らせたまんまでお膝から降りてゆき、ソファーへ戻る。せめて手が届くとこに置いときゃよかったなと、それへもむっかり来ながらに、脱ぎ散らかしてた制服、ポケットをまさぐってスリムな携帯を掴み出し、
「何だ。………うん。うん?」
 八つ当たり半分のやたらと はきはきとした口調なことへと苦笑をし、相手はあのおチビさんだろなという予測を抱いたまま、こちらさんはこちらさんでPCのスイッチを切るとキッチンへと向かう葉柱で。コーヒーでも淹れるかと、茶筒のようなアルミの容器を棚から降ろし、薫り高い荒挽き粉をドリップへとセットする。マグカップを2つほど出しながら、ああ、そういえば。自分と同じ、砂糖だけのコーヒーを彼が飲めるようになったのはそんな昔のことじゃあないよなと思い出し。まだ一桁年齢だった頃から大人を良いように振り回してた、桁外れなほどにおマセさんだった彼だから。今では自分ともわずかにしか変わらない背丈以外は、昔っから大人仕様だったように誤認している自分だと気づく。
“案外と。普通の、ちょこっと突っ張ってるよな男子辺りと、大人レベルは変わらないのかもな。”
 原付免許は今のところ、葉柱が大反対して取らせていないし、実は酒にも弱かったりするから、どうかするとちびセナくんと変わらないのかもなんて、聞こえたら絶対にへそを曲げられそうなことを思いつつ。ドリップから外したポットと、マグカップ2つにブラウンシュガーとを載せたトレイを片手に掲げ、元居たリビングへと戻ってみれば、
「ああ。判ったって、任せなvv
 おやおや。不機嫌そうだったのが、途中から語調が変わっており、
「そうだろな〜。何たってアメリカ本拠のチームで日本人が採用されたのはお初だもんよ。」
 欧州チームでってのは例もあるけどよと、そんな話の展開から、葉柱にも誰が俎上に上がっているのかは即座に分かった。
「明日だな。ああ、直前に電話入れるから。」
 見るからに楽しそうなのは、興味深いイベントに出食わしたから。コーヒーを注いだカップを差し出すと、目顔でサンキュと会釈をし、白い両手で受け取りながら、
「なあなあルイ。明日、車出せねぇ?」
「空港へか?」
「お、察しがいいじゃんか。」
 分からいでかと溜息1つ。あの屈託のない天然坊やからの電話で、アメリカ本拠のチームで云々と来りゃあ、少なくともここ数年ほどアメフトに近しかった人間だったら誰だって分かる。
「進が帰国して来んだろ?」
「ぴんぽ〜んvv
 あの空港、お忍びVIP専用の車寄せスペースがあんだってな。そこに乗り付けてほしいんだ。特に会見の予定は組んでねぇらしいが、そんでも記者がロビーに待ち受けていようから。それに取っ捕まると、インタビューやら何やらで たんと時間を使われちまう。それでなくとも滞在期間はスケジュールが詰んでるらしくって、それを振り切れれば初日だけは自由に使っていいらしくてよ。
“…こいつめ。”
 鬱陶しいの何のと口では迷惑そうに言いつつ、セナくんへの心遣いはいつだって細やかなまま。それが何だか…この子もまた性根は優しいのだと告げてるようで、保護者としては擽ったいばかり。
「どした?」
「いんや。」
 何でもねぇよと見え見えな態度でかぶりを振って、
「だったら明日に備えて今日はやめとくか?」
 さりげなくも話を変えようとすれば、
「何だよ、それ。」
 別に大仰な脱出作戦をやらかす訳じゃあない。アクションがあるとしても、それをこなすのは進だから。だから…あのね? /////////





            ◇



 さてとて、翌日の国際空港では。平日の昼下がりだってのに送迎ロビーには結構な人垣が出来ており。前以ての連絡があってのことか、混乱を避けるためのそれだろう、到着旅客がまずはと出て来る搭乗口から待ち合いの人とを区切るようにと、係の方が仕切りのためのポールつきのロープを張っていて。それを見てどんなアイドルやロックスターが来るのかと、関係のない人までもがついつい立ち止まり、関心を寄せて見守る中、
「お。」
「あっ♪」
 スポーツ紙のカメラマンが、それから個人的な熱狂的なファンたちが。どよめきながら、それぞれにカメラを構えたり興奮気味の歓声を上げる中。他の乗客たちの中へと普通に紛れて、一際ガタイのいい青年が大きめのトランクを押しつつ出て来たのへと、フラッシュが盛大に焚かれ始めて。

  「誰? あれって。」
  「知らない。でも、イケメンじゃん。」
  「お顔が鋭いから、韓国俳優かなぁ。」
  「それか、プロ野球の助っ人選手とか。」
  「え〜、こんな中途半端な時期に?」

 そこにいた半分くらいの人々が、そんな言いようをしつつも離れ難くて居座るロビー。こりゃあここからすんなりと脱出すんのはなかなか骨かもだぞと、すぐ傍らにいた“彼”の渉外マネージャーらしき日系人の男性が苦笑をしたのと、
「………っ!」
 そんな喧噪には関心なさげにいた“彼”が、なのに…それは判りやすくもハッとして見せたのとがほぼ同時。日頃からも表情の変化が判りにくい青年なのに、そんな反応を示すとは。一体何事かとマネージャーさんも前方を見やれば、進行方向の遥か彼方に立ってた誰かさんの姿が見えて。
“………ああ、成程ね。”
 って。そういう対象が居るってところまで認証済みなところは、さすが個人の権利というものへの本場で、本人が“商品”であるスポーツ選手の権利関係を一手に扱い、把握しているのが基本な渉外担当マネージャーさんだけのことはあり、
『清十郎、この場は俺に任せて飛んできな。』
 ホテルへは話もついてるからと、がっつりと頼もしい背中をポンポンと叩けば、
「はい。」
 かっちりと通りの良い声でのお返事があってのち、手荷物を全部置き去りに、ロビーの中を駆け抜けた疾風一陣。
「え?」
「あ、あのちょっとっ!」
 インタビューをと視線でだけでも追おうとした輩たちへは、
「セイジュロへのインタビューなら、明日、ホテルでの共同会見を準備した筈だったがね?」
 こちらさんも元はフットボウラーだったか、グローブみたいな大きな手にて。カメラレンズへ蓋をしながら、契約してない撮影はショーゾー権の侵害だよと、お茶目にも気の利いた牽制を入れてるマネージャーさんの心遣いに背を押され、音速の騎士様が駆けてった先では。

  「進さんっ!」
  「セナ。」

 小さな姿をゴールにと、腕に抱え上げたまんまでその先へまで。何mかオーバーランした今様“東洋の奇跡”さんへ、
「そこで止まんな、こっちがゴールラインだ。」
 もっと先からの声が飛び。さして空いてる訳ではないロビーの向こう。これも見覚えのある青年の、濃色をまとったスリムな肢体が、相変わらずの尊大な姿勢で立っているのが見える。妙に明るいそこは、ロビーから降りてく階段の前であり、だが、特別エリアということで進入許可証のいる出入り口らしいのに、
「早くしなっ!」
 そっちの青年は何の衒いも見せずに腕を上げて急かすわ、
「進さん、行こっ。」
 掴まえた彼までもが、腕の中から促すわ。特に、ぎゅううっと首っ玉へとしがみつく懐かしい感触には、理性の面でもごちゃごちゃ逆らえなかったらしくって。
(おいおい) 再びの前傾姿勢も勇ましく、よ〜いどんっとセナが囁いた号砲一発、フィールドさながらの快走を見せた騎士様を、ゲート担当の警備員さんも問題なく通して下さり、
「ルイに親父さんの車を出させたんでな。VIP専用の車寄せを使えるんだよ。」
 後ろ暗いことがあろうとなかろうと、記者の群れに取り囲まれたりしたくない場合の、もしくは寸暇を惜しんででも出発したいという時の融通を利かせてくれる、これも政治家への特権のようなもの。特別な存在にだけ利用可能なエリアだったので、飛び込んでしまえば本当に、人の気配はあっさりと薄まり。大理石の階段を降り切れば、明るい自然光が降りしきる中に停車中の、黒塗りのクライスラーだろうか大型車が待っているのが、ガラス張りのエントランスの向こうに見えて来る。
「…相変わらず、なのだな。」
 まるで入念な打ち合わせでもしたかのような間のよさと、申し分のないほどに素晴らしい、手回しの鮮やかさ。ああ日本に帰って来たんだなぁと、図らずもこんな格好で実感しようとは思わなかった、東洋の神秘、音速の騎士さんだったそうでございます。





            ◇



 高校、大学と常勝のままに学生時代を終えて、まずは日本のプロリーグに籍を置く実業団チームへとスカウトされた。だが、一度もXリーグのフィールドは踏まぬまま、アメリカは本場NFLへと交換生のような待遇にて渡ることとなったのが、今から3年ほど前の春のこと。レンタル選手のような境遇にて、本場の空気を、熱気を掴んで来いと言って送り出された、栄えあるテスト生のような存在が。選りにも選って…その初年度のシーズンにて、負傷退場した正選手に代わっての代役LBのポジションを、十分すぎる存在感にて務め上げ、レギュラー上位へ食い込むほどもの各種レコードを残したもんだから、
『一番インターセプトが成功して、一番ヤード数を稼ぐランを披露した英雄を、代理の役目を終えたからといって、あっさりベンチや二軍に戻すとは何事ぞ』
 そんな“もの申す”が電話やメールでドカドカと届いた日にゃあ…フロントだって何事が起きているのかとピッチを覗きにも来るだろし、地元のテレビ局がトピックスにて取り上げもして。あれよあれよと言う間に、東洋から来た奇跡の騎士などと、持て囃されるようになったのが、この、相変わらずの仏頂面にもさしたる進歩はないままの。いやさ、年齢が上がった分、恐持て度は上がったかも…の、進清十郎さんだったりするのだが。

  「お前、シーズン明けたらすぐ戻るような言いようをしてたんだってな。」

 昔っからといえば、こちらさんも口利きに遠慮がなかったことでは変わらぬままな、金髪金眸の小悪魔くんが。逗留予定先として部屋を取ってあったホテルに着くなり、そんな攻撃を早速にも浴びせて来て下さって。
「先の正月からこっち、毎日みたいに“明日はどうだろ、今週は帰って来るのかな”って、そりゃあ煩かったチビの胸中、ちっとは察してやれよ、こら。」
 こんな純真な子をぬか喜びさせおって。さすがに春も間近になったころには収まっとったがと。びしりっと、人様を堂々と指さす不遜さも変わってないところへ、こっちが怒り出す前にとでも思ったか、
「察してやらんといかんのはお前もだろが。」
 横合いからの水を差して下さったのが、小悪魔様の側の保護者代理殿。
「何がだよ。」
「だから。」
 せっかくその“シーズン明けの帰国”がやっとのことで叶ったんだから。とっとと二人っきりにしてあげないとななんて。そっちもそっちで、ちょっと邪推が過ぎるのではというよな言いようをしつつも。金髪の君の腕を引くよに連れ出して、早々にもじゃあなと手際よく退散して下さったのはありがたく。
「あらら…。」
 ほんの十数分ほど前は、空港に着いてただドキドキしてただけだったのにね。試合の前だってこんなにも緊張したことないのになって言ったら、蛭魔くんたら、そうかそんなに度胸がついたんかって。その割には恐持てのLBが立ち塞がるとビビるくせによって、何だか筋違いなお話で怒り出しちゃって。そんなごちゃごちゃをついさっきまでしてたなんて嘘みたいだと、セナくんが胸中で呟く。
「えと…。////////
 唐突にしんとしてしまった室内には、あれほど逢いたかった進さんが居て。本当に居て。そぉってお顔を上げると、目元を和ませてる、ちょっぴり大人びたお顔の進さんが立っていて。ああ、背も高いし肩も手も大っきくて。さっきひょいって抱っこされた時、いつものいい匂いがしたのへ、なのにね? ドキッてしたの。それが何でだか、今になってお胸の奥でムクムクして来て、
「あのあのあの…。///////
 どうしよ、ドキドキが止まらなくなって来たよう。蛭魔くんが居たら、止まったら死ぬぞなんて言われそうだと、割と冷静なツッコミを自分で入れつつも。
(笑) 進さんから見たらば真っ赤になってるに違いない、頬の火照りを実感しつつ。リビングらしきフロアの真ん中、置物みたいにそこから動けずに居たセナくんだったが。
「…セナ。」
 響きの良い深い声がして。おいでって言われた訳じゃあないのにね。ふにゃんと、喉のどこかが甘くお返事してこその反応。気がつけばとてとてと、ちょっぴり速足でお傍までを歩ってる。間近まで寄ると、よしよしって。大きな手のひらが髪をそぉって撫でてくれて。その暖ったかさで、
“わあ〜〜〜、進さんだよ〜〜〜。//////
 やっと実感出来てる自分が、物凄く鈍
トロいなぁって思えて泣きそうになる。初夏向けの麻のジャケットも、その下に着ていたスタンドカラーのデザインシャツも。ますます足長に見えちゃう濃青のスラックスもカッコよくって。でもそんなのが見えなくなっちゃうほど、ぎゅううって懐ろ深くへ抱っこされたセナくん。
“きゃあきゃあきゃあっ。/////////
 そのまま恐慌状態に陥るかというよな動揺をしたものの、
「………。」
 辛抱強くも髪や背中を撫でてやっていれば、
「…進さんvv ////////
 やがて自分からお顔を上げて来るのが、いつもの彼らのセレモニー。遠いところにそれぞれ離れて過ごすようになったその途端。久方振りに逢う相手の凛々しさが増したように思えてか、あっと言う間に人見知りが復活するよになったセナらしく。さして日もない場合だってある来日のたび、まずはの“熱さまし”に時間を取られるのは結構痛い。何とか出来ないかという相談を差し向けた桜庭から教えられた方法であり、

  ――― すまなかったな。
       何がですか?
       確かに、すぐにも帰国すると解釈出来るような言い方をした。
       あ、えとえっと。/////////
       寂しかったのか?
       えっと………。/////////

 すぐさまのお返事が出来ないということは? そのくらいの機微はさすがに判るようにもなってる騎士様。ソファーへと促して一緒に腰を落ち着けながら。大きな手が、やっぱりそぉっと髪を撫で。すまなかったなと低い声が繰り返す。

  ――― いつだって、妖一に叱られてばかりいる。
       ボクが勝手に思い込んでたのがいけないんですよう。

 でもね、あのね? 意地悪そうに見せといて、でも、本当は優しい蛭魔くん。いつまでもボクが頼りないからと、庇ってくれたり守ってくれたり。
「アメフトだって。」
 そうそう。まさかこの子に、激しい接触も多かりしな危ないスポーツをやらせるなんてと。小学校や中学校での部活でのフラッグフットまでは看過出来ても、高校生になった矢先に、本格的なのを始めたと聞いたときは、冗談抜きに…突発的にでも帰国して、叱ってやろうと思ったほどだった進でもあったのだけれども。
「最初は一人で帰らすのが心配だったからって、それで同じ部へ入れって持ってったらしくって。」
 相変わらずの天真爛漫。しかも、何かと目立つ蛭魔くんと随分親しいお友達らしいと来れば、思わぬところからの攻撃だの八つ当たりだのが飛んでかないとも限らないからと。見えるところへいつも置いとこうというような、そんなつもりでの引っ張り込みだったものが。そしたら…思いの外に足の速いセナくんだったもんだから。あらためてアメフト仕様の測定をしたところが、40ヤード走の速さもそれから、反復横飛びでの俊敏さでも、トップクラスの素養があると判明し。そこから、マネージャー扱いから一気に正選手へ抜擢されちゃって。そしてそして、何と最初の年度のでこぼこチームにて、関東大会準優勝まで上り詰めちゃったから恐ろしい。

  『次こそはクリスマスボウルを目指します』

 なんて、胸を張ってのメールをくれたりした日にゃあ。危ないから辞めなさいなんて、水を差すよな真似も出来やせずで。
「最近はね。ボクが強くなったと思ってか、対等扱いで口喧嘩とかもよくしますし。」
 例のラブレターの件もしかり、それからあのね、
「進さんのこと、わざとに悪く言ったりもするんですよ?」
 今時のNFLで、身長が2mないディフェンスってのは珍しいんじゃないかとか。
「酷っどいでしょう? だって進さんの背丈が2mもあったらば、ボク、すぐ傍からお顔を見上げらんなくなるじゃないかって。そいで思わず喧嘩になっちゃって♪」
 ぽかぽかぽかって叩くの、最初の10個まではハンデくれてたのに、最近は5個しか待っててくれないの。こらぁって言って、ますは手を捕まえて。それから、おでこを逃がさず やっぱりおでこでコツンてして。このままおでこ同士のゴツンっての、やってやろうかって。そんな風に脅かすんですよう?…なんて。それはそれは無邪気なお話を、うふふvvと屈託なく笑いながら語ってくれる愛しい子。あの小悪魔くんがついつい大切にしちゃうのも判るような、いつまでも天使みたいなセナくんのこと。自分もまた、やっぱり手放せないなぁと、うっとり見つめやる進さんだったりするようでvv 明るいお部屋のソファーに、お互いが二人きり。のほほん・のほのほ、ただただ見つめ合ってたり。相変わらずな甘甘バカプッルのお話でございましたvv







  〜Fine〜  06.5.18.〜5.20.


  *Hさんへ、いつもお世話になっておりますゆえ、愛を込めてvv
   あんまり“進セナ色”が濃くなりませんでしたが、どかご容赦を。
   それと、前作(?)に当たりますお話、
   ルイヒル二人がタイムスリップして来た騒動は、
   これの1年後になりますので念のため。
   それにしても…このシリーズのセナくんて、
   大きくなったらまんま栗田さんのポジションに座るなと思いました、ええ。
   蛭魔くんへ怯えないこととか、のほほんとしてるトコとかが。
   それを意識してみたら、誰だこりゃ?な展開になって来まして。
   いやあ、これもまたパラレルものの落とし穴っていうのでしょうか。
   こんなところにも思わぬカッコで空いてるんですねぇ。
(笑)


ご感想はこちらへvv**

戻る